大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)3252号 判決 1968年5月10日
原告 徳増国吉
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 山田一夫
同 田川和幸
右両名訴訟復代理人弁護士 岡村渥子
被告 扇興運輸株式会社
右代表者代表取締役 真田南海夫
右訴訟代理人弁護士 森島忠三
主文
一、被告は、原告らそれぞれに対し金一、七六九、四〇二円およびこれに対する昭和三七年三月二六日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、この判決は原告らにおいて、担保を供することなく、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告ら
主文一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言
二、被告
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決。
第二、請求原因
一、昭和三七年三月二五日午前六時一五分ごろ、東京都新宿区市ケ谷田町二丁目六番地先路上において、訴外山本光男(以下訴外山本という)の運転する貨物三輪自動車((兵)六あ八七六二号。以下追突車という)が、前方に急停車した訴外佐藤周吉運転の自家用大型貨物自動車(以下被追突車という)の後部に追突し、右事故により追突車の助手席に乗っていた訴外徳増勝(以下訴外勝という)は、頭蓋内損傷により即死した。
二、1、追突車は被告の所有であり、被告は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第二条第三項にいう保有者である。
2、被告は自動車による荷物の運搬等を業とする株式会社であり、自動車運転者として訴外山本を雇用していたものであるところ、本件事故は被告の事業の執行中におこったものである
3、よって、被告は自賠法三条の規定により原告らが本件事故によって受けた後記の損害を賠償すべきである。仮に自賠法第三条の適用がないとしても、被告は民法第七一五条によりその損害を賠償すべきである。
三、本件事故によって訴外勝及び原告らの蒙った損害は次のとおりである。
1、勝の得べかりし利益の喪失による損害
勝は本件事故当時被告会社に勤務し月額金二一、六三四円(昭和三六年四月から同三七年三月までの平均。但し業務上傷害のため入院加療のため勤務しなかった昭和三六年一二月及び同三七年一月を除く。)の賃金収入を得ていたところ、同人の一ヶ月の支出(生活費)は金六、四九〇円であったから、同人は一ヶ月につき金一五、一四四円の純利益を得ていたことになる。
勝は事故当時二五才であり、厚生省大臣官房統計調査部「第九回生命表」によるとその平均余命は四二・〇一となる。一方被告会社の定年は五五才と定められているのであるから、本件事故が発生しなかったら同人は少なくともあと三〇年間は同会社にて就労可能であり、その間少なくとも前記賃金と同額の賃金を受領し前記同額の純利益を得ることができえたはずである。
従って、同人の右三〇年間の得べかりし純利益は、前記月額に三六〇を乗じた金五、四五一、八四〇円であり、ホフマン式計算法によって年五分の割合による中間利息を控除した数値は金三、二七一、一〇四円となる。
よって勝は被告に対し金三、二七一、一〇四円の損害賠償請求権を取得したが同人には、配偶者及び直系尊属はいなかったので、原告徳増国吉(以下原告国吉という)、同徳増いし(以下原告いしという)は、勝の父、母として、同人の右損害賠償請求権を各二分の一(金一、六三五、五五二円)づつ相続した。
2、原告らの慰藉料
原告らの長男である勝は真面目な青年であり、原告ら一家の生計を支えていたもので、原告らはその将来を楽しみにしていたところ、本件事故により同人を喪ったもののであり、右事故死によって多大の精神的苦痛を蒙った。右精神的苦痛に対する慰藉料としては、原告らそれぞれにつき金五〇〇、〇〇〇円をもって相当とする。
3、原告らは、昭和三七年一二月二七日、それぞれ尼崎労働基準監督署から遺族補償金として金三六六、一五〇円を受領した。
4、そこで、原告らは被告に対し、それぞれ右1と2の合計額から3を控除した金一、七六九、四〇二円とこれに対する不法行為後である昭和三七年三月二六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、請求原因事実の認否及び主張
一、認否
1、請求原因一を認める。
2、同二の1を認める。
3、同二の2を認める。
4、同三の1中、勝が被告会社から受けていた平均賃金及び原告らの身分関係は認めるがその余の事実は知らない。
5、同三の2の事実は知らない。慰藉料として金五〇〇、〇〇〇円が適当であるとの点は争う。
6、同三の3を認める。
二、主張
1、本件事故死については自賠法三条の適用はない。すなわち、
(一)、一般に加害車の運転者は同条本文にいわゆる「他人」に該当しないと解するのが相当であるが訴外勝は自動車運転者として被告会社に雇われていたものであり、訴外山本と交替で追突車を運転しながら尼崎から埼玉県大宮まで荷物を運搬中に本件事故に遭遇したものであるところ、本件事故発生当時は訴外山本が運転に従事しており訴外勝は助手席にて待機していたものである。
ところで、被告会社には、「長距離運行その他業務上の必要により運転者二名以上を搭乗させた場合、交替運転者は当該運転者と同様の職務と責任を有し、運転者と協力して安全運行をはたすことにつとめなければならない。」旨を定めた服務規定があり、訴外勝も右規定に従って本件交替運転に従事していたのであるから、自賠法三条の「他人」には該らないというべきである。
(二)、仮にしからずとするも、後記の如く本件事故の発生につき訴外山本には過失はなく、訴外勝には過失があったものであり、追突車の車両は完全に整備され機能及び構造上の欠陥障害は全くなかった。
2、本件事故発生につき訴外山本には過失はなかった。すなわち、本件事故発生当時、事故現場付近においては濃霧が発生し視界は約四〇メートルぐらいしかないうえに、前夜からの雨で(事故発生当時は雨は降っていなかったが)道路面上は濡れていてスリップしやすい状態にあった。
そこで訴外山本は、制限速度内(事故現場付近の制限速度は時速四〇キロメートルである。)である時速約三五キロメートルで被追突車との間に車間距離を約八メートルとって(普通の道路の状態なら急ブレーキをかければ右速度では一ないし二メートルで停止できる。)運転していたものであるが、被追突車が急停車したのを見てすぐに追突車に急ブレートキをかけたが路面が濡れていたのでスリップし本件追突事故を惹起したものであって、前記速度、車間距離から考えて本件事故の発生は不可抗力であって訴外山本には過失はなかったというべきである。
3、被告会社は訴外山本の選任監督につき相当の注意をしていたから使用者としての損害賠償義務はない。
(一)、選任について
被告会社は訴外山本を採用するにつき、同人の経歴性格等を調査したところ、同人は昭和三三年一月陸上自衛隊満期除隊後同三五年二月から日本通運延岡支店に自動車運転者として勤務し、同三六年四月大型第一種運転免許をとったものであること、性格は温順にして慎重に行動する健康な青年でありそれまでに交通事故はもちろん交通違反もおかしたことがなかったことが確認された。そこで被告会社としては、訴外山本を自動車運転者として適任であると判断して採用したものであるから、その選任につき十分の注意を払ったものというべきである。
(二)、監督について
本件事故は、引越し荷物を積載した追突車が尼崎市にある被告会社尼崎営業所を出発し、埼玉県大宮市へ向う途中に起ったものであるが、出発に際して、被告会社尼崎営業所長高地甲子雄は、追突車に塔乗する運転者に、訴外勝と訴外山本を選び、随時交互に運転させることにし、「目的地には翌二五日の夕刻ごろまでに到着すればよいこと、夜間は適当な地点で旅館に一泊して十分休養をとること、途中安全運転に十分注意すること」を指示し、二四日夜の旅館宿泊代を交付した。(なお、尼崎市と大宮市間の距離は約六二〇キロメートルであるから、訴外勝及び訴外山本が運転時間二時間について一五分間の休憩をとることにし(被告会社とその労働組合との間の労働協約六三条にその旨の定めがある)、時速二〇キロメートルで走行したとしても、出発時より二三時間の走行で目的地に到着しうる距離関係にある)。
よって、被告会社は、訴外山本に十分の監督をなしていたというべきである。
4、仮に被告会社に賠償義務があるとしても、被告会社の就業規則第七一条、労働協約第一二一条には「従業員が業務上死亡したときは遺族又は従業員死亡当時その収入により生計を維持していた者に対し平均賃金の一、〇〇〇日分を遺族補償金として支給する。」旨の規定があり、なお右就業規則等には、「労働者災害補償保険法による保険金の給付を受ければその額を右遺族補償金から控除する。」旨の規定があるところ、訴外勝の本件事故死は、その業務に従事中に発生した災害であるから、被告会社は原告らに対し、事故死当時の勝の平均賃金の一、〇〇〇日分から請求原因四の3記載の金員を控除した範囲内でのみ賠償義務を負っているものであって、それを越える賠償義務は負わないものである。
5、仮にしからずとするも、訴外勝と訴外山本とは、随時交替しながら追突車を運転していたものであり、本件事故発生当時には、訴外山本が運転していたものであるが、右1記載の如く、交替運転者(直接運転に従事していない待機中の運転者)も、運転担当者(直接運転に従事している運転者)に自動車運転者としての注意義務違反が認められるときには右運転者に注意を与える等運転担当者と協力して運行の安全に努める義務があるのに、交替運転者として待機中の訴外勝は、右義務を怠り仮眼中であった。
訴外勝の死因は請求原因一記載の如き追突事故により、追突車の前面ウインド枠と座席後部の枠に頭部が挾まれたことによる頭蓋内損傷によるものであるが、もし勝が前方を注意していたとすれば、訴外山本に適当な注意を与えることによって本件事故の発生を避けえたであろうし、少なくとも追突車がスリップしている間(勝が前方を注視していたならば追突の危険を感じたであろう瞬間から追突するまでの間)に頭を少し下げることによって死亡事故は避けえたはずである。
すなわち、本件死亡事故は訴外勝の過失が大きな一因をなしているのであるから、被告は過失相殺を主張する。
第四、被告主張事実の認否
一、1の(一)中訴外勝が自賠法三条の「他人」に該当しないとの点は争うが、その余の事実は認める。
二、1の(二)中訴外山本には過失がなく、訴外勝には過失があったとの点は争う。
三、2は争う。
本件事故は、訴外山本の過失によって生じたものである。
すなわち、自動車運転者が自動車を運転するに際しては、前方車がいつ急停車しても追突にいたらないように前方車との間に十分の距離(車間距離)を保って進行すべき注意義務があるのに、訴外山本は、被追突車の二、三両先を同一方向に進行する被告所有の大型貨物自動車に追従しようとして、右注意義務を怠り、被追突車との間に約八メートルの車間距離を保つのみで時速約三五キロメートルの速度で進行した過失により、被追突車が停止信号により急停車したのを見て急ブレーキをかけたが間に合わず、追突車の左前部を被追突車の荷台後部に衝突させたものである。
四、3の(一)を認める。
五、3の(二)中、本件事故は、被告会社尼崎営業所を出発した追突車が埼玉県大宮市に引越し荷物を運搬中に発生したものであることは認めるが、その余を否認する。
本件引越し荷物の運搬は、追突車とトラック(以下本件トラックという)の二台にてなされたものであるが、高地甲子雄は、行く先等を具体的に指示した地図等をトラックの運転者に手渡したのみで、追突車の運転者である訴外山本と訴外勝には、「行く先は埼玉であるが詳細はトラックの運転者に伝えてあるからトラックの後に従っていてくれ。翌二五日午前一〇時すぎまでに到着するように。」との指示を与えたものであるが、本件事故の発生は、二四日午後二五分ごろ尼崎市を出発した追突車が六二〇キロメートル離れた大宮市に二五日の午前一〇時すぎまでに到着しなければならなかった無理な日程と、トラックのみが行く先を知っているので、訴外山本が被追突車の前方を走行していた右トラックを見失わないために、速度を出しすぎ、被追突車との間に十分の車間距離をとれなかったことに遠因を有するものであり、右は被告会社の監督不十分というべきである。
六、4を否認する。仮に主張の如き規定が存在するとしても、それは、被告会社の不法行為にもとづく損害賠償義務の範囲を定めたものではない。
七、5を争う。直接運転に従事していない者は、休養中というべきであり、被告主張の如き、運転者に助言を与える等の義務は負わないというべく、仮眠していても訴外勝には何ら過失はないというべきである。
第六、証拠≪省略≫
理由
一、請求原因一、同二の1、2は当事者間に争いがない。
二、そこで、訴外勝が自賠法第三条にいわゆる「他人」に該当するか否かについて判断する。
訴外勝、同山本は自動車運転者として被告会社に勤務していたこと、本件事故は引越し荷物を積載した追突車が尼崎市にある被告会社尼崎営業所を出発し埼玉県大宮市に向う途中で起ったものであること、追突車には訴外勝、同山本が搭乗して交互に運転していたが本件事故発生時には訴外山本が運転を担当し訴外勝は助手席に坐していたことは当事者間に争いがなく、右事実に≪証拠省略≫を総合すると、被告会社には工務職服務規定がありその第二四条には「長距離運行その他業務上の必要により運転者二名以上を搭乗させた場合、交替運転者は当該運転者と同様の職務と責任を有し運転者と協力して安全運行をはたすことにつとめなければならない。」旨定められていること、被告会社と被告会社労働組合との間の労働協約には、二〇〇キロメートル走行するごとに一五分間休憩するよう定められていること、被告会社尼崎営業所長高地甲子雄は訴外勝、同山本が出発するに際して「大切な荷物であるから二五日の夕方ごろまでに着く予定でゆっくり行ってくれ。遅くなってもいいから静岡で一泊してくれ。」との指示を与え各自に宿泊代として金八〇〇円を手渡したこと、訴外勝、同山本はそれほど疲労していなかったので旅館には宿泊せず、二四日午後六時ごろ約一時間、二五日午前〇時ごろ約一時間車を停めて休憩したこと、訴外勝と同山本は三時間交替で運転したが、二五日午前三時ごろ訴外山本が運転を担当し事故発生当時は訴外山本が運転していたこと、訴外山本は訴外勝の運転中助手席に坐して約四時間仮眠したこと、訴外勝は事故発生当時助手席に坐して仮眠していたことが認められるところ、右事実に当裁判所に顕著な長距離運送の実情ならびに被害者を広く保護しようとする自賠法第三条の立法趣旨および同条が民法第七〇九条、第七一五条の特則と考えられる点を併せ考えると、前記工務職服務規定、労働協約および高地甲子雄の指示は、長距離運送の安全を期する一応の目安としての指示にとどまるものと解すべく、危険に際して担当運転者からの要請がある場合など特段の事情のない限り、交替運転者は自己の当番に備えて、休養睡眠をとることは許されるものであると解すべきである。そうであるとすれば、訴外勝は事故当時は前記工務職服務規定労働協約の存在にもかかわらず同法第三条にいわゆる「他人」に該るものといわざるをえない。
三、そこで自賠法第三条但書の主張について判断する。
訴外山本は、本件事故発生当時追突車を運転して、被追突車との間に約八メートルの車間距離を保ち、時速約三五キロメートルで進行していたところ、被追突車が急停車したのを見て急ブレーキをかけたが間に合わず本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、事故当時事故現場付近は濃霧が発生し、視界は約四〇〇メートルぐらいしかないうえに前夜からの雨で(事故当時は雨は降っていなかったが)道路面上は濡れていてスリップしやすい状態にあったことは原告において明らかにこれを争わないからこれを自白したものとみなす。
そこで、右認定事実に即して訴外山本の運転上の過失の有無について考察するに、自動車運転者は、同一道路を進行している他の車両の直後を進行するときは、前方車両が急に停止してもこれとの追突を避けることができる距離(車間距離)を保ち追突事故を防止すべき注意義務があるが、右車間距離は一般的抽象的に定まるものでなく、前方車の速度、自車の速度、道路および道路面の状態、視界の状況、四周の状況(交差点付近であるか等)等に照らして考えるべきものであるところ、前記認定の諸事情のもとにおいては、前方車(被追突車)との間に約八メートルの車間距離を保ったのみで漫然運転を続けた訴外山本には、自動車運転者として遵守すべき車間距離保持の注意義務違反があったといわなくてはならない。
そして訴外勝の死亡が訴外山本の自動車運転の方法の瑕疵に基因するものであることは右認定の事故発生の経緯に照らして明らかであるから、訴外勝の死亡と訴外山本の過失には因果関係がある。
したがって、被告の自賠法第三条但書の主張はその余の点についての判断をまつまでもなく失当であるから被告は原告らに対し同条本文の規定により訴外勝の死亡により原告らが蒙った損害を賠償する義務があるものというべきである。
四、そこで損害の点(請求原因四)について判断する。
勝が本件事故当時、被告会社より月額平均金二一、六三四円の収入を得ていたこと、原告国吉、同いしはそれぞれ勝の親であり、勝の遺産を相続したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に≪証拠省略≫を総合すると、訴外勝は前示死亡当時二五才であり被告会社から月額平均金二一、六三四円の賃金収入を得ていたところ、同人の月額平均支出は金六、四九〇円より少なかったので同人は少なくとも月額金一五、一四四円の純利益を得ていたこと、同人の平均余命は厚生省大臣官房統計調査部「第九回生命表」によると、四二、二四であり被告会社の定年は五五才であるから、本件事故に遭遇しなかったら同人は少なくともあと三〇年間は被告会社にて就労可能でありその間少なくとも前記同額の賃金を受領して毎月前示同額の純利益を得ることができその合計額は金五、四五一、八四〇円(15,144×360)であることが認められる。したがって、同人が本件事故により喪失した得べかりし利益は、一時にその支払を受けるものとして、右純利益合計金五、四五一、八四〇円からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出した金三 二七一、一〇四円となるから同人は本件不法行為により右金額の損害賠償債権を取得したものというべきところ、訴外勝の死亡により原告国吉、同いしはいずれもその親として相続により各二分の一にあたる金一、六三五、五五二円の損害賠償請求権を取得したものである。
よって請求原因四の1は理由がある。
2、請求原因四の2について
≪証拠省略≫によれば、本件事故により訴外勝が死亡したことによって原告らが精神的苦痛を蒙ったことは明らかであるので慰藉料の額について考察するに、≪証拠省略≫を総合すると、被告会社は、その東京支店において、約金一〇〇、〇〇〇円を支払って訴外勝の仮葬儀を行なったこと、被告会社は、訴外勝の死体を東京から尼崎の原告ら宅へ運ぶ霊柩車の借料として金一五〇、〇〇〇円を支出し、原告方で行われた葬儀代として金二〇〇、〇〇〇円を支払ったこと、被告会社は、会社名儀、役員名儀等にて金六九、〇〇〇円の香典を支払ったこと、訴外勝は兄弟五人の長男としてその父である原告国吉とともに主として一家の生計を支えてきたものであることが認められるところ、右認定事実に訴外山本の過失の態様その他諸般の事情を考慮すると、その額は原告らに対しそれぞれ金五〇〇、〇〇〇円をもって相当とする。
3、原告らが昭和三七年一二月二七日尼崎労働基準監督署から遺族補償金として各金三六六、一五〇円を受けとったことは当事者間に争いがない。
五、そこで過失相殺の点について判断するに、前記二の如く、訴外勝が仮眠していたことにつき、同人には何らの義務違反もなく、したがってその点に本件事故発生につき同人の過失を認めることはできないから被告のこの点に関する主張は理由がない。
六、そこで被告の主張4について判断するに、≪証拠省略≫によれば、被告会社の就業規則第七一条には「従業員が業務上死亡したときは、遺族または従業員死亡当時その収入により生計を維持した者に対し、平均賃金の一、〇〇〇日分を遺族補償費として支給する。」旨の規定があり、同規則第七七条には、「補償費を受くる者が同一の理由により労災保険法またはその他の法令により保険給付を受ける時は、その給付額は災害補償額より控除する。」旨の規定があることが認められるが、右各規定は被告会社の過失の有無等を考慮することなく、もっぱら遺族等の生計補償を目的とした規定であって、被告会社が、その不法行為によって従業員および遺族等に対して負う損害賠償額の限度を規定したものではないから被告のこの点に関する主張はその主張自体失当といわざるをえない。
六、以上認定のとおりとすれば、被告は原告らそれぞれに対し右四の1記載の金一、六三五、五五二円に右四の2記載の金五〇〇、〇〇〇円を加えたものから右四の3記載の金三六六、一五〇円を差し引いた金一、七六九、四〇二円と不法行為の後である昭和三七年三月二六日から民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから原告らの本訴請求はすべて正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高林克己 裁判官 惣脇春雄 坪井俊輔)